年初来高値をつけたばかりのニデックが、わずか2営業日後にストップ安。9月28日の終値は2,340円、前営業日比17.61%安でした。[1]
これだけ下がれば「そろそろ安いのでは」と気になります。ただ、今回は株価だけでなく、割安かどうかを判断する利益や資産の数字そのものが見直される局面です。
大きく下がったことと、割安になったことは違う。 反転を考える前に、何がまだ決まっていないのかを整理したいと思います。
※株価は2026年9月28日終値、材料は同日夜までの開示・報道を基準にしています。
高値更新の直後に、何が変わったのか
ニデックは、旧・日本電産。家電、自動車、産業機械などに使われるモーターを中心に、部品や装置をメーカーなどへ供給する会社です。思惑だけで事業の実体がない銘柄ではありません。[2]
株価は9月24日に年初来高値2,941円をつけましたが、28日は2,390円で寄り付き、2,405円までしか戻せずにストップ安で終了しました。[1]
※表は横にスクロールできます →
| 日付 | 終値 | 出来高 |
|---|---|---|
| 9月24日 | 2,822円 | 1,039万8,700株 |
| 9月25日 | 2,840円 | 380万3,700株 |
| 9月28日 | 2,340円 | 2,802万8,800株 |
出所:トレーダーズ・ウェブ、マネックス証券の株価データ。[1][3]

出来高は前営業日の約7.4倍。単なる日々の押し目とは違い、評価を見直す売買が集中した一日です。ただし、大商いだけで「売り切った」とは判断できません。下限価格で終わった以上、翌営業日にも売りが続く余地があります。
きっかけは、ダイヤモンド・オンラインによる社長解任決議と1兆円規模の減損報道でした。しかし、会社が28日に認めたのは、役員変更と大規模な減損を検討していることまで。決定した事実はないと説明しています。「1兆円の損失が確定した」「社長交代で再建が決まった」と読むのは、どちらも早い。[4]

今回だけの悪材料ではなかった
会計問題は突然始まったわけではありません。ニデックは2025年9月に第三者委員会を設置。2025年3月期の財務諸表には監査意見が表明されず、同年10月28日には東証の特別注意銘柄に指定されました。2026年4月には最終調査報告を受領し、改善計画を改訂しています。[5][6]
一方、従来の公表業績だけを見ると、売上拡大と利益回復が目立ちます。
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| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 22,300億円 | 899億円 | 370億円 |
| 2024年3月期 | 23,472億円 | 1,619億円 | 1,245億円 |
| 2025年3月期 | 26,078億円 | 2,378億円 | 1,642億円 |
上表は会社の業績ハイライトに掲載されている従来公表値で、進行中の訂正を織り込んだ確定値ではありません。 億円単位に四捨五入しています。[7]
ここが今回の難しさです。表をそのまま信じれば「稼ぐ力が回復していた会社の急落」に見える。しかし、その利益の信頼性まで検証されている。以前の利益を使ってPERを計算し、値下がりしたから割安と結論づけることはできません。

「1,607億円」と「2,500億円」は足してはいけない
過去の開示には、今回の報道とは別に大きな数字が出ています。意味を分けないと、実際以上にも、実際以下にも受け取ってしまいます。
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| 数字 | 何を表すか |
|---|---|
| 1,607億円 | 4月17日開示の、2025年度第1四半期末までの純利益への累計マイナス影響額 |
| 約2,500億円 | 同開示で示した、追加減損の検討対象となるのれん・固定資産の金額 |
| 1兆円規模 | 9月28日の報道上の減損規模。会社の確定発表ではない |
出所:ニデック4月17日開示資料2ページ、9月28日の会社コメントを伝えた報道。[8][4]
約2,500億円は「その全額を損失処理すると決めた」という意味ではありません。また、累計の利益修正と資産評価では、対象期間も性質も違います。重複関係が確定していない数字を単純に合算するのは不適切です。
自分が気になるのは、報道額の大きさだけではありません。どの事業の資産を見直し、その事業の将来の稼ぎをどう引き下げるのか。 同じ減損でも、過去の買収資産の整理なのか、現在の主力事業の採算悪化なのかで、今後の利益の見方は変わります。
現金が出ていかない。それでも軽くは見られない
減損は、帳簿に載せている資産の価値を、事業での使用や売却によって回収できる金額まで切り下げる処理です。工場や設備に加え、買収時に計上した「のれん」も対象になります。[9]
処理そのものは、同額の現金を新たに支払うことではありません。だから「1兆円減損なら、預金がその日に1兆円減る」という理解は違います。
ところが、ここで「現金が減らないなら問題ない」と考えると逆方向に間違えます。過去に投じた資金を想定どおり回収できないなら、その投資の採算や資産価値は悪化しています。損失計上で利益や純資産が減れば、株価を資産と比べるPBRの前提も変わります。
設備などの減損後に減価償却費が軽くなり、翌期の利益が改善する場合もあります。しかし、それだけで販売や資金回収が好転したとはいえません。再建を判断するなら、一時損失を除いた利益だけでなく、本業が生む現金と借入返済の余力も確認したいところです。

株価が戻るとすれば、何が必要か
悲観材料だけで会社全体を片づけるのも違います。ニデックはAIデータセンターの液体冷却装置も開発しており、6月には最大300kW対応の装置の試作機を発表しました。発熱の大きいAIサーバーを冷やす製品で、成長市場との事業上の接点はあります。[10]
ただし、試作機の発表と連結利益への貢献は別の話です。こうした事業がどれだけ受注を取り、既存事業の負担を補えるのか。訂正後の数字で説明できれば、再評価の根拠になります。
短期的には、正式開示で損失の範囲が見え、警戒していた内容より軽ければ、反発する可能性があります。一方、追加損失や決算開示の遅れが続くなら、下値を探る展開も考えられます。どちらも、現時点で決め打ちはできません。
特に2,340円は、28日の値幅制限の下限だった価格です。企業価値から導いた底値ではありません。翌営業日以降にこの水準を維持できるか、反発しても戻り売りに押されるかは、開示への市場の受け止めを測る材料になります。
産経新聞は、9月30日に決算会見を予定していると報じています。見るべきなのは、損失額、訂正後の利益・純資産、監査の結論を一緒に確認できるかどうかです。[11]
また、ニデックには特別注意銘柄としての内部管理体制の改善という課題があります。減損を計上しただけで指定解除が決まるわけではなく、改善状況の審査は別に残ります。[6]

まとめ|反発と、再建を評価した上昇は分けたい
今回の急落を見て、自分は「悪材料を全部出せば戻る」とまでは考えていません。損失の全体像が見えることは前進ですが、その後に稼げる事業と資金繰りが残ることも必要だからです。
株価が持続的に戻るとすれば、損失処理の区切り、本業の収益力、内部管理の改善がそろって確認できる展開でしょう。逆に、説明のたびに前提が変わるようなら、反発しても評価は安定しにくいと見ます。
次の開示では「1兆円より多いか少ないか」だけでなく、損失処理後のニデックはいくら稼げる会社なのかを確かめたい。その答えが見えて初めて、今回の下落が再評価の入口になるのかを判断できると思います。
※本記事は公開情報に基づく個人的な考察であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。将来の株価や業績を保証するものではなく、投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
出典
- トレーダーズ・ウェブ「ニデック〈6594〉株価・銘柄データ」(2026年9月28日15:30のデータ。終値・騰落率・四本値・出来高・年初来高値)。
- ニデック「ニデック、データセンター向け大規模液冷装置を千葉県印西市のデータセンターで試験運用開始」(2025年6月19日、末尾「ニデックについて」の事業説明)。
- マネックス証券「ニデック・時系列」(2026年9月24日・25日の終値と出来高)。
- EE Times Japan「ニデックが『岸田社長の解任決議』報道にコメント」(2026年9月28日15:40、報道内容と会社コメントを区別)。
- ニデック「会計に関する第三者委員会の調査結果を踏まえて」および「改善・対策について」(第三者委員会設置、最終報告受領、2026年4月27日の改善計画改訂)。
- 日本取引所グループ「特別注意銘柄の指定:ニデック(株)」(2025年10月27日公表、指定日10月28日、監査意見不表明・内部管理体制の問題)。
- ニデック「連結業績ハイライト」(2022~2024年度=2023~2025年3月期。掲載中の従来公表値であり、進行中の訂正後数値とは区別)。
- ニデック「第三者委員会の調査報告書(追補)の公表及び当社の対応に関するお知らせ」および添付調査報告書(2026年4月17日、PDF通算2ページ「過年度決算の訂正への影響について」。表を画像でも確認)。
- IFRS財団「IAS 36 Impairment of Assets」(資産の帳簿価額、回収可能価額、減損の基本原則)。
- ニデック「最大300kWの冷却能力を備えたIn-Rack CDUを開発」(2026年6月9日。試作機の開発であり、当該発表を量産売上や利益の確定根拠にはしていない)。
- 産経新聞/ITmedia ビジネスオンライン「ニデック、岸田社長含む役員交代を検討 大規模な減損も発表か 経営体制の立て直し焦点」(2026年9月28日19:35。9月30日の会見予定は報道として記載)。


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